はちみつケーキ

はちみつのほんのり甘い香りが漂って来た。
オーブンを覗くと、ケーキの表面は滑らかで、きつね色にきれいな焼き色がついていた。型から取り出して
金網の上にいるのは、小公女のような品の有るかわいいケーキ…?
ぼんやりしていて大失敗。
さつま芋を入れようと思っていたのに、すっかり忘れた。種を混ぜているときに何か変だな?と思いながらきっと違う事を考えていたんだと思う。焼き上がったケーキを見るまで気つかず。まったく困ったもんだ。こんなお上品なケーキぢゃなくて、もっとボリュームのある芋姉ちゃんを作る予定だったのに。仕方ない、このお嬢さんに芋のコートを着せよう、その上にリンゴを赤ワインで煮てシナモンの香りを付けた帽子、赤いベリーのジュレでおめかししよう。と、ここまで考えていた時、はちみつの香りが鼻をかすめた。待て、失敗だけど失敗じゃないかも…ケーキを一口…クローバー畑一面に薄桃色の花、ブーンと低い音をたて小さな黒い陰は働いている…働き者は一生かけても小さなスプーン一杯分の蜜しか残せなかった…そうだった、これはこのままで良いや。あんまりぱっとしないけど、はちみつってそれだけで黄金のしずくだった事忘れてた。静かな味のケーキ、この味は大昔きっと誰かが食べた味と同じ。